1 人工知能(AI)Artificial Intelligence
1.1 AIとは何かWhat Is AI?
Figure 1.1

四つのアプローチ
1.1.1 人間のように行動する:チューリング・テストによるアプローチActing humanly: The Turing Test approach
チューリング・テストTuring Test
Alan Turingによって考案された人工知能のためのテスト。
コンピュータは文書によって質問者(相手がコンピュータか人間かは知らされていない)とやりとりをし、質問者に対して自分がコンピュータであるとバレなければ合格、というもの。
このテストに合格するためには、以下の能力が必要となる:
- 自然言語処理natural language processing
- 知識表現knowledge representation
- 自動推論automated reasoning
- 機械学習machine learning
総合チューリング・テストtotal Turing Test
前述のチューリング・テストに、文書のやりとりだけでなく物体のやり取りも加えた強化版。
このテストに合格するには、チューリング・テストに必要な能力に加えて以下が必要となる:
- コンピュータ・ビジョンcomputer vision
- ロボット工学robotics
AIの研究者は、この分野はあまり熱心には取り組んでいない。
ライト兄弟が鳥の模倣ではなく航空力学を研究することによって飛行に成功したように、AI研究者は人を模倣することよりもそこに内在する原理を究明することが重要だと考えている。
1.1.2 人間のように考える:認知モデルによるアプローチThinking humanly: The cognitive modeling approach
人間の思考を再現しようとするならば、まず人間の頭の中で何が起こっているのかを知らなくてはならない。
その方法としては以下の3つがある:
- 内省introspection
- 心理学的実験psychological experiments
- 脳撮像brain imaging
学際的な認知科学cognitive scienceの分野では、AIのコンピュータ・モデルと心理学の実験技術を組み合わせて人間の心について明確で実験可能な理論を構築しようとしている。
それは、単にコンピュータ・モデルの研究だけで完結するものではなく、問題解決に優れたアルゴリズムがそのまま優れた人間行動のモデルになるとというものではない。
1.1.3 合理的に考える:「思考法則」によるアプローチThinking rationally: The "laws of thought" approach
論理的に正しい思考をパターン化し体系化すること(つまり論理学)によって人間の思考の法則を再現しようとするアプローチ。
1965年までに、すべての論理的に提起された解決可能solvableな問題を(原理的に)解くことができるプログラムが存在していた。
このアプローチには以下の主要な難点がある
- 現実の事象を形式的に表現すること(特に、知識が不確実な場合)
- 原理的に解けることであっても、莫大な処理コストがかかったりして現実的には解くことができない場合があること
1.1.4 合理的に行動する:合理的エージェントによるアプローチActing rationally: The rational agent approach
合理的エージェントrational agentとは、最良の結果(不確実性が存在する場合は、期待される結果)を達成するために行動をする主体のこと。
合理的な行動には合理的な思考も必要となるが、必ずしも常にそれに頼れるわけではない。
チューリング・テストに必要な能力は、このアプローチでのやはり必要になる。
このアプローチは合理的な思考のアプローチよりも一般的な状況に適用できるし、人間の行動や思考を基にしたアプローチよりも科学の発展の恩恵を受けやすい。
そういうわけで、この本では専らこのアプローチについて解説する。
多くの場合(主に計算リソースの問題で)完全に合理的な思考による解決は現実的ではないのではあるが、説明の都合上、本書の多くの箇所ではそれができるものとして話を進めているので注意。
合理的な思考が制限される場合の適切な行動については(→5章、7章)。
1.2 AIの土台となるものThe Foundations of Artificial Intelligence
この節では、AIにアイディアや視点、技術を提供してきた各分野についての簡単な歴史を解説する。
関連する全ての内容を網羅できているわけではないので、ここに書かれていることが全てだと思わないこと。
1.2.1 哲学Philosophy
- 形式的な規則によって妥当な結論が導けるのか
- 物理的な脳からどうやって心が発生するのか
- 知識はどこからやってくるのか
- どうやって知識が行動に結びつくのか
1.2.2 数学Mathematics
- 妥当な結論を導く形式的な規則とはどういうものか
- 何が計算可能なのか
- 不確実な状況下で私たちはどのように判断しているのか
1.2.3 経済学Economics
- 報酬を最大化するにはどうしたらよいか
- 他の人たちが協力的でない場合にはどうか
- 報酬を得られるのがずっと先になってしまう場合にはどうか
1.2.4 神経科学Neuroscience
1.2.5 心理学Psychology
1.2.6 計算機工学Computer engineering
1.2.7 制御理論及び人工頭脳学Control theory and cybernetics
1.2.8 言語学Linguistics
1.3 AIの歴史The History of Artificial Intelligence
1.3.1 The gestation of artificial intelligence(1943-1955)
1.3.2 The birth of artificial intelligence(1956)
1.3.3 Early enthusiasm, great expectations(1952-1969)
1.3.4 A dose of reality(1966-1973)
1.3.5 Knowledge-based systems: The key to power?(1969-1979)
1.3.6 AI becomes an industry(1980-present)
1.3.7 The return of neural networks(1986-present)
1.3.8 AI adopts the scientific method(1987-present)
1.3.9 The emergence of intelligent agents(1995-present)
1.3.10 The availability of very large data sets(2001-present)
1.4 最先端のAI技術The State of the Art